2006年04月08日

まったなし

  先月の大相撲春場所は、またもや横綱朝青龍が優勝したとはいえ、優勝決定戦までもつれ込む見応えのある場所でした。栃東の綱取りがならなかったことは残念でしたが、後半戦では個人的に魁皇の取り組みに注目していました。あと1敗でもしたら負け越して大関陥落、もしかしたら引退かというギリギリのところでとっていましたから、魁皇自身の緊張もあったのでしょう。
  立会いで「待った」がたびたびありましたが、魁皇の勇姿が見られるのもこれが最後かもしれないと思って見ていると、魁皇に限っては何度待ったをしても許せてしまうような気になっていました。

 「まったなし」という金融商品ですが、相撲関連企業に投資するファンドではありません。年金の受け取りを待たせないという意味で、変額年金保険の名前です。マニュライフ生命保険が引き受け保険会社で、りそな銀行と埼玉りそな銀行で販売されています。すぐに年金が受け取れて、マニュライフ生命保険というと、三菱東京UFJ銀行等で販売している「トゥーサプライズ」という年金保険がありますが、基本的な仕組みはこれと一緒です。当ブログでも以前に「“毎月分配型”変額年金保険」として採り上げたことがあります。「まったなし」と「トゥーサプライズ」の違いはといえば、特別勘定、つまり投資信託の部分の運用会社が違っています。変額年金保険は保険と投資信託を一緒にした金融商品ですから、保険の枠組みが一緒でも投資信託の運用で違いが出てくるかもしれないと思うのですが、「まったなし」と「トゥーサプライズ」とではそれほどの違いは出て来そうにありません。

 「まったなし」の投信の運用会社はソシエテジェネラルアセットマネジメントクレディアグリコルアセットマネジメントというどちらもフランス系の投信会社ですが、以前からりそなグループでは両社の運用する投信を販売しています。また、「トゥーサプライズ」の投信の運用会社は三菱UFJ投信で、社名のとおりMUFGグループの運用会社です。運用会社は全く違いますが、運用内容を見てみますと、どちらも日本と外国の株式と債券に投資していて、「まったなし」ですと株式の割合に応じて「国際分散型」15・25・35と3種類の特別勘定が用意されていて、「トゥーサプライズ」は「世界分散型」15・25・35となっています。「まったなし」の国際分散型は今年の3月から、「トゥーサプライズ」の世界分散型は昨年の11月から運用している違いはありますが、直近の運用実績ではほとんど差は出ていません。というより、どちらにしてもまだそれほどの増減は出ていないといったところです。

 最終的に元本部分はマニュライフ生命保険が保証していますから、利用者としては積極的にリスクをとってアグレッシブに運用してもらった方が、特に長期投資には望ましいと思います。ただどちらの運用会社がよりアグレッシブかは今のところわかりません。恐らくは将来的にもそれほど差は出ないのかもしれません。商品性に差がなければ、「まったなし」を取り扱っているりそな銀行の利用者が敢えて「トゥーサプライズ」を購入する必要はありませんし、その逆もないということになります。そうすると「まったなし」はりそな銀行と埼玉りそな銀行の利用者が主に購入することになりますし、「トゥーサプライズ」は三菱東京UFJ銀行をはじめとする取り扱い銀行の利用者が主な購入者になります。

 「まったなし」と「トゥーサプライズ」の今後のことを考えて見ますと、販売量というか販売額は今のところ「トゥーサプライズ」の方が大きくなるだろうと思われます。購入対象者である取り扱い銀行の利用者数が圧倒的に違うからです。三菱東京UFJ銀行だけを取ってみても、りそな銀行と埼玉りそな銀行の利用者数を合わせても及ばないはずですし、「トゥーサプライズ」は他にもMUFGグループの三菱UFJ信託銀行や三菱UFJ証券も取り扱っていますし、八十二銀行、鳥取銀行といった地方銀行も取り扱っています。(H.18.4.1現在)

 でも三菱東京UFJの利用者と、りそな銀行の利用者というもっとミクロの視点に立ってみるとまた違った面が見えてきます。どちらの年金保険も元本はマニュライフ生命保険が保証しています。元本を下回ることはないというところは銀行の預金と同じです。1千万円までは国が守ってくれますからそれを信じるとして、1千万円を超えた金額を銀行に預けるか、生命保険会社に預けるかを考えますと、運用によって増減する可能性、すなわちリスクと預ける金融機関の信用力の兼ね合いを考えます。

 運用によってより多く増えるかもしれな金融機関はその分信用力が低くても我慢しなければなりませんし、あまり増えない金融機関ならそれだけ信用力が高くなくては預ける意味がありません。ところで、運用によって増える可能性というのは、まったく同じ可能性だけ減るかもしれないのが運用の世界の常識です。増減の可能性の幅、これがリスクです。リスクが高ければリターンも大きいと期待できますが、ロスの可能性も大きいのが普通です。

 さて、先ほどの変額年金保険の「まったなし」や「トゥーサプライズ」と、銀行の定期預金とではどちらに運用の成果を期待するでしょうか。考え方は人それぞれあると思いますが、多くの人は10年〜20年くらいのあいだ定期預金に置いておくよりは変額年金保険で運用した方が高いリターンを期待するのではないでしょうか。つまり、変額年金保険のほうがリターンが大きくなるかもしれませんしロスも大きいかもしれません。けれどもロスについてはマニュライフ生命保険という金融機関がゼロになるよう保証してくれています。ロスがゼロになるという点では定期預金でも同様です。定期預金では銀行が保証しています。

 定期預金より大きなリターンが期待できると考えられる変額年金保険を扱う金融機関、マニュライフ生命保険はその分信用力が劣っていても、それは我慢しなければなりません。しかしS&Pという格付会社によると、マニュライフ生命保険の格付は「AA+」となっています。一方、三菱東京UFJ銀行の格付は、「A」、りそな銀行の格付は「BBB+」です。マニュライフ生命保険のほうが格付は高くなっています。これは、もしS&P社の格付を信じるのなら、三菱東京UFJ銀行やりそな銀行で預金額1千万円を超えた分は預金に置いておくより、「トゥーサプライズ」や「まったなし」にした方が安全だという見方もできるということです。

 そうはいうものの、三菱東京UFJ銀行は国内でもっとも財務内容の健全な銀行といわれていますから、「AA+」も「A」もどちらも安全だという見方もできますし、日本の銀行は大手を中心に不良債権処理も終わって健全になっているから、格付自体を上方修正の方向で見直すべきだと言う意見もあると思います。ただ、三菱東京UFJ銀行の利用者と、りそな銀行の利用者を考えた場合、どちらの利用者がより多く格付の高いマニュライフ生命保険へ資金を移動しようと考える動機を持つかというと、格付の低いりそな銀行の利用者の方だと考えられます。つまり、りそな銀行と三菱東京UFJ銀行で同じ人数の利用者にそれぞれ「まったなし」と「トゥーサプライズ」を勧めたときに、「まったなし」の方が良く売れる可能性が高いということです。

 金融商品はリスクの大きさと金融機関の信用力だけで選ばれるわけではないのですが、他の条件を一切無視して考えれば、信用力の弱い金融機関ほどリスク商品は売れて手数料収入が期待できるといえます。

 S&Pの格付が正しいとすると他にもいろいろなことが考えられます。先ほど定期預金よりも変額年金保険のほうがリターンを期待する、すなわちリスクが高いといいました。でも変額年金保険を扱う保険会社の格付が銀行の格付よりも高い以上、少なくとも「まったなし」と「トゥーサプライズ」に関しては、りそな銀や三菱東京UFJ銀の定期預金ほどのリターンは期待できないのではないか、とも考えられます。あるいはまったく逆に、10年単位で考えれば両行の定期預金の金利は、今われわれが考えているよりもずっと高くなるのではないか、という考えも成り立ちます。定期預金よりも変額年金保険のほうがリスクが高いと思うのはただの幻想に過ぎないのか、低金利に慣れてしまっていますが定期預金の金利は今後はかなり高くなるということなのか。
 
 前者のように考えると「まったなし」も「トゥーサプライズ」も利回りという魅力は萎んでしまいますし、後者のように考えると定期預金での運用もいいのかもしれないと期待したくなります。後者に関していえば、実際にゼロ金利が解除されて定期預金の金利が上がってきたことは確かです。さて、あなたはどのようにお考えになりますか?
posted by 星野FP事務所 at 12:05| Comment(5) | TrackBack(0) | 資金運用 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
生命保険の加入でいろいろ調べていたところ、偶然星野さんのページに辿り着きました。プロフィールでは元銀行員とのこと。FPとしても活動なさっているのでしょうか。個人的に相談に応じていただければと思っています。ご連絡いただければ幸いです。
Posted by すみれ at 2008年09月06日 22:16
すみれさん、コメントありがとうございます。
 個別のご相談ということで、できればお力になりたいのですが、個別のご相談をお受けするだけのセキュリティ上のシステムがまだ出来上がっておりません。個別のご相談ですと個人情報に関する内容もあるでしょうから、安全性にはしっかりした対策が必要と考えております。
 申し訳ございませんが、個人情報に関わらない範囲でのお話でしたら、当ブログにコメントしていただければ当方でできる限りのご回答をさせていただきたいと思っております。どうぞご理解のほどよろしくお願いいたします。
Posted by 星野FP事務所 at 2008年09月06日 22:17
4月12日にご連絡したすみれです。さっそくお返事いただきありがとうございました。体調を崩していたためお返事が遅くなり申し訳ございません。実は、星野さんに原稿執筆をお願いしたいと考えており、先日はあのような回りくどいコメントをしたしだいです。お目にかかりたいと思っております。よろしければ私のメールアドレス宛に星野さんの連絡先を明記の上、ご連絡いただくことは可能でしょうか。突然のご依頼で恐縮ですがお返事いただければ幸いです。
Posted by すみれ at 2008年09月06日 22:17
すみれさん、体調を崩されていたということで、もう大丈夫でしょうか。
原稿の件ということで、私でお役に立てることでしたらご協力させていただきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
Posted by 星野FP事務所 at 2008年09月06日 22:18
銀行の格付けと保険会社の格付けを一様に並べて比較されていますが、いちばんやってはいけないことです。
社債と保険支払い財務力格付けを比較されてませんか?ミスリードです。
Posted by 元格付け会社 at 2011年02月16日 18:05
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